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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和59年(ラ)15号 決定

抗告人

久保一郎

右代理人

小酒井好信

相手方

伊藤達男

相手方

岩田光雄

右相手方ら代理人

石本理

主文

原決定を取消す。

相手方ら(原審申立人ら)の本件申立を却下する。

抗告費用は相手方らの負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は別紙抗告状(写)記載のとおりである。

二よつて先ず、本件借地条件変更申立の適否について検討する。

本件記録によれば、相手方伊藤達男(以下、相手方伊藤という)の母伊藤よしは昭和二三年五月頃抗告人から原決定別紙物件目録記載(一)の土地(以下、(一)の土地という)を木造その他堅固でない建物所有の目的で、期間の定めなく賃借し、同地上に木造板葺(現況カラー鉄板平板葺)二階建居宅(一、二階とも各44.06平方メートル)を建築所有していたが、その後相手方伊藤において、相続により右建物を取得し右土地賃借人の地位を承継したこと、相手方岩田光雄の父岩田時太郎は昭和二二年頃抗告人から原決定別紙物件目録記載(二)の土地(以下、(二)の土地という)を、木造その他堅固でない建物所有の目的で、期間の定めなく賃借し、同地上に木造亜鉛メッキ鋼板葺(現況亜鉛鉄板平板葺コールタール塗)二階建店舗(一階33.05平方メートル、二階26.44平方メートル)を建築所有していたが、その後相手方岩田において、相続により右建物を取得し、右土地賃借人の地位を承継したこと、右各賃借地は互に隣接していること、右各賃貸借契約は別個独立のものであり、相手方らはそれぞれ自己の賃借地についてのみ使用権限を有し隣接地については使用権限を有していないこと、相手方らは右各建物を取りこわし(一)及び(二)の土地上に鉄骨造地上三階建、延床面積各34.1坪づつの共同ビルを建築する計画をたて、右各土地についての借地契約の目的を、それぞれ堅固な建物の所有に変更する旨の裁判を求めたことが認められる。

ところで、借地法八条の二は、事情の変更により現に借地権を設定するにおいては堅固の建物の所有を目的とすることを相当とするに至つた場合において、堅固の建物以外の建物を所有する旨の借地条件の変更について当事者間に協議が調わないときは、裁判所に右借地条件を変更する権限を認めているけれども、借地法は、裁判所に、賃貸人を同じくする互に隣接する土地の各賃借人に対しそれぞれ他方の隣接地を使用できる権限を付与すること、或いは右各賃借権を右各賃借地の全体に対する共同賃借権に変更する権限を認めていない。前記認定したところによれば、相手方らは(一)及び(二)の土地を共同利用する権限を有しないのに、相手方ら申立の共同ビルが建築された場合、相手方らは各自の賃借地だけでなく、それぞれ他方の賃借地も使用する結果となるものであるから、共同ビルを建築する目的で右各土地につき借地条件の変更を求める本件申立は、借地法の認めないところであつて不適法な申立というべきである。

三よつて、本件申立を認容して借地条件を変更した原決定は違法であるからこれを取消し、相手方ら(原審申立人ら)の本件申立を却下することとし、抗告費用は相手方らの負担とし、主文のとおり決定する。

(山内茂克 三浦伊佐雄 松村恒)

原決定の表示

〔主文〕

一 申立人伊藤達男から相手方に対し本裁判確定の日から一か月以内に金二六五万五、〇〇〇円を支払うことを条件として、右両者間の別紙物件目録(一)記載の土地についての借地契約を堅固な建物の所有を目的とするものに変更する。

二 前項の借地権の存続期間を、右目的変更の効力を生じた日から三〇年に、賃料を右目的変更の効力を生じた日の属する月の翌月一日から一か月金一万九、七〇〇円に改定する。

三 申立人岩田光雄から相手方に対し本裁判確定の日から一か月以内に金一九〇万二、〇〇〇円を支払うことを条件として、右両者間の別紙物件目録(二)記載の土地についての借地契約を堅固な建物の所有を目的とするものに変更する。

四 前項の借地権の存続期間を、右目的変更の効力を生じた日から三〇年に、賃料を右目的変更の効力を生じた日の属する月の翌月一日から一か月金一万五、五〇〇円に改定する。

抗告の趣旨

原決定を取消す。

相手方ら(原審申立人)の本件申立を却下する。

抗告の理由

相手方らの有する地上建物はすでに朽廃の域に達し、あるいは朽廃すべき時は近いものとも考えられ、右建物の朽廃により借地権の消滅も早晩免れがたいものといわなければならない。

本件土地は、抗告人の子息が目下開業を目論んでいる建築設計事務所の適地として、唯一最高の条件を備えた土地であつて、自己使用の必要性があるばかりでなく、契約成立時 法定更新時に権利金、更新料等の金銭給付も受けていない。

更に鑑定委員会作成の意見書中、階層別効用比率の算定内容、効用増分の配分、地代増額の算定基礎について何ら実証的資料を欠き不適切であるばかりでなく、賃料増額についても個別要因、地域要因を同一とする近傍類地の賃料事例と比較して低きに失し、附随処分についても違法不当なものと思料される。

抗告の理由については抗告理由書をもつて追つて詳細に追完する。

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